だんじり鉦の取り扱いについての心得。
もっと だんじり鉦の寿命を延ばしたい。もっと良い音を出したい。
そんな皆様方のために、だんじり鉦の 取り扱い方について の基礎知識を
『だんじり鉦の正しい吊り方』、『だんじり鉦を叩く時』、『だんじり鉦を叩くもの』の3つの観点から、
お伝えしたいと思います。
日本の祭りでは、鉦や太鼓、笛など数多くの和楽器が用いられております。
中でも和太鼓のように、多くの専門店や教室、また集団活動の盛んな和楽器は、お店や指導者のなどから、
和太鼓についての取り扱い方や基礎知識を詳しく学ぶことができます。
しかし、鉦についてはどうでしょうか。
とくに、だんじり鉦専門店はほとんどなく、なかなか、取り扱い方や基礎知識などを直接学ぶ機会が少ないかと思われます。
最近、だんじり鉦についての取り扱い方や基礎知識をまったくわからないまま、叩いておられる方がたくさんいらっしゃいます。
*まず最初に、『だんじり鉦は割れ物です!』ここから、ご理解して頂きたいと思います。
鋳物は割れ物です。しかし、多少のことでは、なかなか割れたりするものではありません。
では何故、ヒビが入ったり割れたりするのでしょうか。それには、必ず原因や理由があるからです。
*叩き方を叩く時と叩くもの(鹿倍・撞木等)
だんじり鉦のヒビや割れのほとんどが、この二つが原因かと考えられます。
ここでは、『だんじり鉦の正しい吊り方』から順を追って、お伝えしたいと思います。
1.『だんじり鉦の正しい吊り方』についての基礎知識
*だんじり鉦の正式な吊り方は、上から2本のロープでしっかりと吊り、下を1本のロープで引っ張るようにします。
ちょうど、アルファベットのYの文字によく似ています。
これが正しい吊り方です。
よく、上を1本のロープで吊り、下を2本のロープで引っ張っるような吊り方をされている鉦を見かけます。
これは、『逆さ吊り』と呼ばれており、だんじり鉦の吊り方には適しておりません。
また、非常に危険な吊り方でもあるので、安全の為にも、正しい吊り方に変えて頂きたいと思います。
*吊るす時は、鉦本体の耳(ロープを通す穴)から、枠(吊るす側)までのロープの距離を、最低8センチぐらい開ける余裕がほしいものです。
理由については、後で述べたいと思います。
よく耳と枠とのロープの距離を余裕無しに、カチンコチンに結んである鉦を見かけますが、鉦にとってはあまり良い条件だとは言えません。
鉦の音や響きは、3本のロープを伝って振動しているのです。
だから、鳴るのです。その振動の道(ロープ)を止めてしまえば、音や響きの逃げ場所がなくなり、鉦も鳴らなくなるのです。
そして、鉦本体にかなりの負担がかかり、ヒビの原因や割れる確率も高くなってくるのです。
*また、鉦本体の耳に直接金属製の輪っかなどを取り付け、そこからロープを通して吊るされている鉦を見かけます。
これらは『鳴り止め』『鳴り殺し』と呼ばれ、だんじり鉦にとっては決して良いとは言えません。
音や響きが耳からロープに伝わる前に、先に金属製の輪っかに伝わる為、金属同士が音や響きの振動を消し合ってしまうからです。
やはり、鉦本体の耳には直接ロープを通して頂きたいと思います。
*ひとくちに、だんじり祭りと言っても、各市町村によって祭りの形態や見せ場など、それぞれちがった特長をもっています。
そして、だんじり鉦の吊り方もその祭りの形態にあうように、いろいろと工夫され、進化しております。
最近は、丸い鉄枠の中にだんじり鉦を吊るされている町内も増えて参りました。
柱に輪止めをし、丸い鉄枠が宙に浮いた状態の中にだんじり鉦を吊るして叩くのです。
これも限られたスペースの中で、工夫された吊り方だと思います。
しかし、ここで気をつけなければいけないことは、鉄枠を造る製作所に、だんじり鉦の大きさ(寸法)だけを伝えて、
肝心な重さを伝えるのを忘れてしまうことです。
まれに、大きな寸法の重いだんじり鉦を、細い鉄枠で吊っているのを見かけることがあります。
大きな鉦(1尺以上)は、音も響きも大きく迫力があります。
その分、鉦本体の耳からロープへ伝わる振動も強く、細くて丸い鉄枠全体に振動が伝わってしまうのです。
だから、鉦を叩けば、鉄枠まで振動が伝わり「ブゥーン、ブゥーン」と、うなりはじめます。
そして、そのうなりは、輪止め柱では吸収しきれずに、鉄枠本体を揺らしてしまうのです。
これは、鉄枠の太さとだんじり鉦が合っていないということです。
これもまた、だんじり鉦への負担が大きく、ヒビや割れの原因のひとつになると言えるでしょう。
一番間違いないのは、だんじり鉦本体を、鉄枠を造っている製作所へ持ち込むことです。
この時、鉦本体の重さだけでなく、鉦を打ち下ろす時の打力も加わることを、計算して造って頂くことです。
とくに、鹿倍(しかばい)撞木を上下に激しく叩かれる祭では、鉄枠にかなりの負担がかかります。
安全のためにも、製作所とよく相談されて、造って頂きたいと思います。
このように、吊り方を少し工夫するだけで、ヒビや割れ防止につながり、だんじり鉦の寿命を伸ばすことができるのです。
また、吊り方が良ければ、本来のだんじり鉦のもつ音や響き、そして迫力など十分に祭で発揮することができるのです。
この『だんじり鉦の吊り方』を、少しでも御理解して頂き、また参考にして頂ければ、私ども職人一同、大変幸甚に存じます。
2.『だんじり鉦を叩く時』の注意
だんじり鉦の叩き方(打法)は大きく分けて二つに分かれます。
鹿倍(撞木)を左右に叩く打ち方と、上下に叩く打ち方です。もちろん斜めに叩かれている地域もあります。
以前は、大和川(やまとがわ)を挟んで、北側は左右に、南側は上下に叩かれているところが多かったようですが、
最近は、自由に叩かれているようです。叩く時は、利き手で鹿倍(撞木)を握って叩くわけですが…、その時、もう片方の手は、どうされていますか?
地車(だんじり)の中もまた鉦の揺れも激しいため、ほとんどの方は、柱や鉄枠、だんじり鉦を吊るしているロープを握りしめながら、
鉦を叩いておられます。たたくときの安定と安全を守るためには、当然のことだと思います。
しかしながら、長時間同じ姿勢で鉦を叩き続けるには、かなりの体力が必要です。だんだんと握力が弱まり、最初に握りしめていた鉄枠やロープの位置から、知らぬ間に手が下の方へと降りてきていませんか?
その時、ちょうどよいところで引っ掛かるのが、だんじり鉦本体にある耳の位置です。(耳とは鉦本体にあるロープを通す部分です)
耳は、鉦本体から出っぱっている為、握りしめながら叩くには、ちょうどよい場所にあるのです。しかしながら、この行為は、だんじり鉦にとっては、『最悪の状況』であり、また、とんでもない負担が、鉦にかかっているのです。
よく耳の下の部分にヒビや割れがおきるのは、このことが原因かと思われます。 決しておすすめはしませんが、耳を持たない状態で、一度だけ鉦を叩いて音を聴いてみて下さい。音が響いて余韻が残ります。
次に耳を持った状態で、一度だけ鉦を叩いてみて下さい。音が沈んで、響きも余韻も止まってしまいます。
要するに、音の響き(振動)を完全に殺してしまっているのです。そのため、音が鳴らなくなったり、また音が小さくなったりしてしまいます。
その為、力任せにおもいっきり叩いて、割ってしまうのです。
だんじり鉦を叩く時は、『絶対、鉦に手を触れてはいけません!』必ず守って頂きたいものです。
だんじり鉦の音が鳴らないから、小さいからといって、力任せにおもいっきり叩く前に、正しい吊り方かどうか、叩く時の注意を怠っていないか、
もう一度よく確かめて頂きたいものです。
だんじり鉦は、通常の力で十分大きな音が鳴るのです。
3.『だんじり鉦を 叩くもの』鹿倍・撞木について
鉦を叩くものですが、だんじり祭りの鉦の場合、ほとんど鹿の角(鹿倍)で、叩いておられます。
しかし、地域によっては、硬い木製の撞木で叩かれいる祭りもあります。この時、鹿倍はできるだけ角の根付き部分をおすすめします。
丸みをおびた平らなものが良いとされています。角の真ん中辺りをぶつ切りにした鹿倍も見かけますが、
この場合、角の目がよく詰まって重いものをお選び下さい。
叩く部分に小さな穴がたくさん空いていたり、中がスカスカで軽いものは、割れたり欠けたりしやすいので注意して下さい。
そして、鹿倍の叩く面は、できるだけ角丸(かどまる)にされた方が、鉦にとって負担が少ないのです。
こまめにバリ取りや面取りをすることも大事なことです。
だんじり鉦を叩くうえで、ちょっとした注意を守って頂ければ、鉦の寿命が伸び、鉦の持つ本来の音を楽しむことができるのです。
祭りは、人はもちろんのこと、鉦も参加しているのです。 祭りは、鳴り物が付き物です。鉦もまた生き物です。
どうか、『すゑ永のだんじり鉦』を、末永くご愛顧下さいますよう、何卒よろしくお願い致します。